コラボ件数年間20超! 『進撃の巨人』がビジネスシーンで選ばれる理由【講談社・マンガIPライセンス担当者が語る】
全世界でシリーズ累計発行部数1億4000万部を突破し、講談社作品のダークファンタジーの金字塔的存在といえる『進撃の巨⼈』。これまでに、アニメ化・実写映画化・ゲーム化といった数々のメディアミックスを展開してきた一方で、IP活用シーンでもトップクラスのコラボ数を誇っている。2021年の連載終了後、また2023年のアニメ完結後もなお、問い合わせは増え続けているという。その理由を、『進撃の巨⼈』のライセンスを担当しているライツ・メディアビジネス本部の伊藤洋平に話を聞いた。
驚愕のコラボ実績年間20件を叶える大きな理由は"NGの少なさ"
──『進撃の巨⼈』は、2009年~2021年まで「別冊少年マガジン」で連載され、2013年からアニメ放送がスタートした作品だ。アニメ開始直後から企業とのコラボプロジェクトが実施され、この10年間でのタイアップ案件数は累計200超。講談社作品の中でもトップクラスの実績を誇る。
伊藤 年間にすると20件。タレントさんで例えると、1年間に20社との契約が10年以上続いていることになるので、かなりの数になるかと思います。この数字を可能にしている理由は様々ありますが、自分たちなりには"NGの少なさ"が大きなポイントだと推測しています。
IP活用に際して、作品を検討するポイントはいつくかあると思いますが、キャンペーンやプロモーションを成功させるためには"自社サービス・商品と作品との親和性の高さ"を重視する傾向があります。しかし、そもそも『進撃の巨人』はファンタジー作品なので、私たちの日常生活にあるものが作品の中には存在しません。そのため、作品の世界感を重視しすぎたり、共通点や関連性を探そうとなると、反対に何もできなくなってしまいます。
──原作者の諫山創氏の寛大かつポジティブな思考から、チャレンジングなタイアップが可能になっているとも。
伊藤 諫山先生との会話で強く記憶に残っているのが、「読者も含めて多くの人が楽しんでくれるのなら、自由に使っていただいて構わない」という言葉です。作中のキャラクターを使って、クライアントがやりたいことや伝えたいことの理想に近い形でOKできるように調整するのが、僕たちのミッションだと考えています。
原作者の温かい意向もあり、『進撃の巨人』は自由度の高いユニークなタイアップが多いかもしれません。記念すべきコラボ第1号は、「エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社」が提供していたパーソナルクラウドサービス「マイポケット」とのコラボレーションでした。サービス開始10周年を記念して、「進撃のマイポケット」キャンペーンを実施しました。
──2013年4月にアニメのSeason 1がスタートし、直後にコラボが決定。そこから一気にプロジェクトが進み、6月にコラボキャンペーンが実施されるスピーディーな事例となったという。
伊藤 アニメスタート直後だったために提供できる素材が少なかったので、それをカバーするために色々と策を練る必要がありました。諫山先生にもインタビューにご協力いただくなど、そのとき使えるものを総動員した感じでしたが、最終的にはかなり充実した企画が実現できました。あれもこれも「ダメです」と言うのではなくて、「これならできます」というコミュニケーションを大事にしたいと思っているのですが、その原体験はこの最初のコラボにあったかもしれません。
──その後も、自由度の高いユニークなタイアップの相談は増えることとなり、過密なスケジュールで進行することも多くあったが、この時の経験があったために、なんとか乗り越えられたという。各社のこだわりをうまく昇華できた案件が、満足度の高いコンテンツに仕上がるとも。
保存版資料の
"描き下ろし"が良いタイアップにつながる
伊藤 基本的に、タイアップには描き下ろしをおすすめしています。その理由としては、"そこでしか見られない絵があるかどうか"で反応がまったく違うからです。マンガやアニメでは見られない絵を用意することで、新鮮さやおもしろさをファンに提供できます。広告的にも、コラボの意を汲んだ絵がある方が注目を集めやすいですし、そこにまたひとつコラボをした意味を生み出せます。描き下ろしには3ヵ月前後を必要とするため、制作スケジュールは半年~1年ほどのスパンが理想です。直近の事例ですと、「極楽湯 RAKU SPA」とのコラボレーションの描き下ろしは色んな意味で注目を集めていたみたいです。
銭湯施設「極楽湯 RAKU SPA」とのコラボイベント『お風呂の民~The SENTO Season~』
伊藤 文脈や意味のない肌の露出は避ける、というレギュレーションを持っている作品は多いのですが、意味もなく肌を見せるようなことをしてしまうと、得るものもあるのかもしれませんが、反対に失うものも多いのではないでしょうか。ですが、『進撃の巨人』とサウナには親和性がありました。原作のコミックスカバーでもキャラクターがサウナに入っているシーンが描かれてますし、何より諫山先生がサウナ好きを公言してましたので、「いきなり脱いだ!」みたいなことにはならないだろうというようなことを、わりと真剣に話し合っていました。
──極楽湯のほかには、「マルイシティ横浜」で開催した、歌舞伎とのコラボレーションポップアップ『進撃の巨⼈×歌舞伎コラボ〜丸井横浜 歌舞伎ノ舘〜』がある。描き下ろしイラストを使⽤したグッズ販売、フォトスポットなど、コラボならではのビジュアルが多くの評判を呼んだ。
好評につき、追加巡回も実施された『進撃の巨人×歌舞伎コラボ~丸井横浜 歌舞伎ノ舘』
遊び心と汎用性の高さが好評! キラーフレーズが豊富な『進撃の巨人』
──寛容な姿勢で、大胆なコラボにも意欲的に挑戦し続ける『進撃の巨人』だが、認知度の⾼さと訴求⼒の強さも特徴だ。
伊藤 アニメのほかに実写映画やゲームなどのメディアミックスも多い作品なので、ファンだけでなく多くの方に知名度も⾼く、20~40代の男女を中心に幅広い層への訴求が⾒込めるIPとなっています。資⽣堂のメンズブランド「UNO(ウーノ)」とのコラボでは、アニメの名シーンになぞらえて、キャラクター達が肌の悩みによってたかぶった感情をぶつけ合う内容のWEB動画を公開しました。当初から目的が明確になっていて、商材に合わせて脇役の巨人いわゆる"無垢の巨⼈"を起⽤したいという点もおもしろかった事例です。
人気キャラクターだけでなく"無垢の巨人"もメインビジュアルに起用した資生堂「UNO」とのコラボレーション
伊藤 WEB動画に関しては、「ユニークなものを作りたい」という希望がありました。実現可能かどうかは横に置き、こういった遠慮のない相談をいただけるのはありがたいです。一見、無理そうな相談であっても、私たちには、"ブランドが大切にしているものを多くの人に伝えるために作品を使ってもらいたい"という想いがあります。過去の事例を振り返るとクライアントと一緒に試行錯誤を繰り返して実現化したコラボの方が、結果的に成功しているものが多い気がします。
ほかにも、サンリオとのコラボが大きな反響がありました。進撃キャラたちがサンリオテイストで描かれたり、キャラクター同士が交流しているイラストが描かれたりと作中では見られない可愛らしさが好評でした。第3弾まで続くヒットコラボです。
サンリオの世界観と『進撃の巨人』の世界観が融合したビジュアルが好評となり継続案件に
グッズが即完売するなど反響も大きかった
──クライアント側には、キラーフレーズの多さと使いやすさが、コラボのしやすさに直結しているとも推測する。
伊藤 例えば、「UNO」では作中の有名なセリフにちなんで「肌トラブルを駆逐せよ。」というキャッチコピーにしています。他にも、インパクトのあるセリフをオマージュした事例は数多くあります。少しもじるだけでコラボ感を演出できる点も、クライアント側の遊び心を刺激しているのかもしれません。
また、都市部だけでなく地域限定的なIP活用にも意欲的に取り組んでいます。最近では、アニメ最終話の放送直前の2023年に開催した、「ボートレースびわこ」とのコラボイベント「ボートレースびわこ~巨人襲来~」がありました。
来場者・舟券購入者特典としてオリジナルグッズのプレゼントも実施された
「ボートレースびわこ」とのコラボレーションでは期間中、多くの人々が訪れた
伊藤 「ボートレースびわこ」へは、私も実際に滋賀県まで足を運びましたが、「ボートレース場にいつもはいない客層の人たちを集客できた」というお話をいただきました。また、「東京以外でのイベントは少ないのでうれしい」というファンの声も聞きました。滋賀県での一日だけのコラボでしたが、作品の露出が増えることはありがたいですし、規模の大小は気にしていません。
グローバルIPとしても成⻑を続ける『進撃の巨人』
──『進撃の巨人』のIP活用は日本国内にとどまらず、海外でのコラボ事例も徐々に増えてきているという。
伊藤 2020年ころから、国内で展開するコラボを海外にも転用する形で実施していましたが、最近は海外のみのコラボを実施するケースも増えています。近年では、アジア圏を中心に数が増えていて、2023年は「ピザハット台湾」とのコラボキャンペーンなども実施し、大きな反響をいただきました。
店舗装飾もこだわり抜かれた「ピザハット台湾」とのコラボは
現地での話題だけでなくエレン・イェーガー役の声優さんも驚きをSNSで投稿し話題に
──海外でのIP活用となると、日本とは様々な違いがあると考えられがちだが、意外にも日本とそう大差はないという。
伊藤 プロジェクトによっては、現地法人の方とやりとりすることもありますが、「ピザハット台湾」とのコラボでは日本の広告代理店の担当者が間に入ってくれました。部内にはバイリンガルやトリリンガルの担当者がいますので、海外で展開するコラボだから受けられないということはありません。実際に海外企業から直接コラボの商談をすることも増えてきています。
──海外企業との直接やりとりでのコラボが実現したら、その実績を携えて、欧米などのヘの展開フェーズに移りたいとのこと。
伊藤 『進撃の巨人』に限ったことではないですが、日本に比べると海外でのキャラクターコラボはまだ少ないと感じています。日本と同じことがすぐにできるとは思っていませんが、どんなアレンジを加えたら受け入れられるのか。トライアンドエラーを繰り返しながら、ビジネスのカタチをを見つけたいと思っています。
「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」とのコラボレーションでは
日本を代表するマンガ・アニメとしてアトラクションなどにも起用
※画像は「ユニバーサル・クールジャパン 2019」より
作品理解度よりも、まずはご相談いただけることがありがたい
──すでに連載が終了しているため、担当者の作品の理解度の低さや作品の勉強のし直しといったことがネックになるかもしれないが、「ストーリーやキャラクターに詳しくなくていい」と話す。
伊藤 もちろん、クライアント担当者の中にはファンの方もいて、キャラクターの個性やストーリーの結末を踏まえたうえで相談されることもあります。しかし、世の中にはたくさんのマンガがあり、人によって好みは違います。作品名は知っているけどストーリーは知らないという人もいて当たり前です。
冒頭でもお伝えしたように、『進撃の巨人』は原作者の意向もあり、大胆かつチャレンジングなタイアップ内容にも柔軟に対応する作品です。世界観や内容よりも、おもしろさや新鮮さを重視したコンセプトのコラボも大歓迎ですので、訴求対象が決まっているのであれば、その層に人気のキャラクターを人選する段階からのサポートも可能です。
IP活用の根底となるのは、クライアント企業のブランド価値の向上やサービス等の認知拡大といった会社全体での成長です。不明な点や懸念点がある場合も、ぜひ、気軽にご相談いただきたいですね。
本記事の語り手
講談社 ライツ・メディアビジネス本部
『進撃の巨人』ライセンス担当
伊藤 洋平
保存版資料の
撮影/日下部真紀 インタビュー・文/アベキミコ 編集・コーディネート/加藤大二郎、加藤秀夫(マンガIPサーチ)