【講談社・マンガビジネストーク】「Palcy(パルシィ)」事業担当者が語る舞台裏 前編|少女・女性マンガアプリ誕生と成長の軌跡

講談社の少女・女性マンガアプリとして2018年にリリースされ、累計500万のアプリダウンロード、月間アクティブユーザー90万人を突破し、ますます拡大中の「Palcy(パルシィ)」。アプリ誕生のいきさつや今後の展望について、担当者が語る短期連載・前編です。

前編となる今回は、アプリの誕生から現在までの成長について聞きました。

【本記事のトピックス】
・Palcy(パルシィ)事業立ち上げエピソード
・アプリの独自性はどこに?
・ライバルは全エンタメ!

【本記事の語り手】
助宗 佑美(写真右)
「Palcy(パルシィ)」二代目編集長。現在は講談社クリエイターズラボ所属。アプリ立ち上げ当初から戦略を練り、現在の基盤を築く。好きなマンガは『おいピータン!!』&『おいおいピータン!!』『ゆりあ先生の赤い糸』。

北原 恵(写真左)
「デザート」編集部を経て、2022年6月に「Palcy(パルシィ)」三代目編集長に就任。今後の事業拡大をミッションとして担っている。好きなマンガは『はいからさんが通る』『へうげもの』。

──「Palcy(以下:パルシィ)」は講談社初の少女・女性マンガアプリですね。この事業はどのような経緯でスタートしたのでしょうか。

助宗
講談社として初のマンガアプリである「マガポケ」は当初、アプリで「週刊少年マガジン」の作品が読めるということから始まり、徐々に増刊的な意味合いになっていったという経緯がありました。

それに対して「パルシィ」立ち上げの際の視点は、
"今後ファンとのコミュニケーションをどう取っていくべきか"
"少女マンガのアプリも会社に必要だ"
という2つの軸がありました。

漫画家さんがつくった作品を、出版物として購入してもらう従来のやり取りを超えコミュニケーションをとるためのコミュニティづくりは出版社が今後積極的にトライしていくべき領域です。そこで、創作活動にまつわる人々が集うプラットフォームを運営する「pixiv(ピクシブ)」さんと協業という形をとり、知見をいただきながら、ファンとクリエイターの関係構築を発明していこうという発想です。

その大前提として、出版社の役割としてマンガが生まれた時に、読み手にちゃんと作品が届く場所でなければいけません。そこで、どういうアプリが使いやすいのか、読者はどんな風にマンガを読みたいのかを開発、設計も非常に重要な項目でした。

北原
パルシィの名前の由来は、「パル(Pal)=友達」「C=コミック」「Y=エール」が組み合わさったもので、講談社が「なかよし」や「フレンド」といった雑誌を出版してることから決まりました。

助宗
名前にも入っていますが、リリース当初から「エール」という仕組みが導入されています。読むとエールが貯まって作者の応援になるという。これはファンとのコミュニティをどう作るかという、当初ベースとなった思考がそのまま設計に表れていて、今でも引き継がれています。

──リリース当時のマンガアプリ業界はどのような時期だったのでしょうか。

助宗
当時はちょうど大手版元から少女マンガを中心に据えたアプリが出そろってきていた時期でした。この中で切磋琢磨しながら争っていくのだろうな、というタイミングでしたね。

累計500万DL、MAUは90万人を突破し、ますます拡大中

──事業立ち上げから1年で月間アクティブユーザー(MAU)もDL数も右肩上がりです。なぜ順調に数値が伸びたのでしょうか。

助宗
アプリの使い勝手や広告出稿という手段も大事だとは思いますが、いちばん大切なのは"読みたいマンガがあるか、それがおもしろいのか"ということが大事だと思います。

北原
アプリの力は作品の力、ということですね。

助宗
コンテンツパワーがアプリのパワーとイコールになるということを「マガポケ」の成功から学んでいたので、いかにおもしろいオリジナル作品をつくれるか、おもしろい作品とユーザーを出会わせられるかを第一に考えていました。

成長のエポックメイキング的な出来事としては、異なるメディアで同一のコンテンツ配信を同時に行う「サイマル配信」を始めたことも、大きかったです。
各編集部の人気作品が、雑誌発売当日にパルシィでも読める、となると、自然にコンテンツパワーが増大します。その結果がDL数に繋がったという面はあります。

北原
オリジナル作品の強化というのも、もちろん大事な課題です。
2021年の後半から、「月刊少年シリウス」や「少年マガジンエッジ」による女性向け異世界ヒロイン作品がパルシィで連載をスタートさせました。そのことで"パルシィっていろいろチャレンジできる場所なんだ"と認知されるようになり、社内でも身近に感じてもらえるようになったことも、成長の一因だと思います。

助宗
パルシィの立ち上げにあたっては、先行して「マガポケ」というアプリがすでにあったので、会議にお邪魔させてもらって、戦略的なことやデータ分析、チームビルディングの方針まで、とても多くのことを参考にさせてもらいました。

講談社には3つのアプリがありますが、これはそれぞれが新作の発表媒体としての役割を担っているからです。少年マンガや少女マンガなどでカテゴリーを分け、その中で新人の作家さんにチャンスの機会を増やしたほうが、結果的にスター作家の数が増え、マンガ業界が盛り上がっていきます。

パルシィの成長のきっかけとなったオリジナル作品一例

──成長のきっかけになった作品にはどんなものがありますか。

助宗
節目として「最初にオリジナル作品の人気が出た時」「サイマル配信を始めた時」そして「異世界ヒロイン作品の連載をはじめた時」の三段階があると思っています。

パルシィの初期から連載をスタートしてくださった長谷垣なるみ先生の『極妻デイズ~極道三兄弟にせまられてます~』という作品が大人気になりました。当時マンガ業界では"悪い男ブーム"みたいなものがあり、才能のあるマンガ家さんがいちばん旬な話題のテーマでパルシィの新連載に挑んでくれた。これによって「極妻デイズが読めるのはパルシィだよね」と、作品側からアプリを認知してもらえました。利便性も大事、そして、やっぱりいい作品を生み出すことが大事ということを改めて実感し、背筋が伸びたような感触でした。

サイマル配信を始めた時には、『花野井くんと恋の病』とか『うるわしの宵の月』など人気作が続々と入ってきてくれたことで、「あの講談社の有名作品も読めるんだ」と話題になりました。現在進行形で連載しているものの最新話が読めるとあって、パルシィのブランド力がグンと上がった気がします。

北原
最近おもしろいなと思うのは、読者がSNSでパルシィに掲載されている作品を宣伝、拡散してくれることですね。「このキャラがかっこいい!」とおすすめしてくれるうえに「ここで読めますよ」と、パルシィに誘導してくれる。今までになかった傾向が生まれてきています。

助宗
従来はおもしろい連載作品があればその雑誌の作品も読んでもらえる、でしたが、おもしろい連載作品があれば講談社の過去から現代まですべての作品とユーザーさんの出会いを演出するチャンスがもらえるという構造になったのは非常に大きいことです。

作品ごとにある「ファンレター」機能が作家と読者のコミュニケーションを構築している

──ブランディングを向上させることになったできごとにはどんなものがありますか。

助宗
パルシィにファンレターのコーナーがあることです。
ユーザーがその場でコメントをして反映されるので、それが作者にすぐ伝わるんですね。それを雑誌で描いてくださっている作家さんたちがありがたいなと感じてくれて、作品作りにも活かされています。

北原
雑誌だと新人作家の連載は埋もれてしまって、読者からの感想もなかなかもらえません。また、アンケートの集計にはタイムラグもあります。それに対して、パルシィのファンレターはリアルタイムで全ての作家さんに届くので、若手や新人作家さんはダイレクトな読者の感想を読むことができてモチベーションUPにつながっているようです。

助宗
"ユーザーさんと漫画家さんの間でどういうコミュニケーションがアプリ上で取れるのか"という当初からトライしたいと思っていたことのひとつが、ファンレターという機能を付けたことで叶ったのかな、と思います。

工夫したのは「コメント」ではなく「ファンレター」という名前にしたところです。
パルシィはユーザーさんがマンガを読む場所でもありますが漫画家さんが育っていく場所でもあります。

だから、「ここはファンが作家にファンレターを送る場所ですよ」という意思表示をするために「ファンレター」と名付けたのです。作家さんが読む可能性が非常に高いですよという意味をユーザーさんが自然に受け取ってくれ、メッセージの熱量は非常に高いですし、意見を書くにしても「もっとこういうものが読みたい」など、きちんと人に伝える言葉で書いてくれる場合が大半です。

パルシィの設定しているユーザーペルソナのイメージ

──ユーザーの属性やペルソナはどう想定されていますか?

助宗
当初からいわゆる少女マンガを読んでくれている人を中心に、"今の女の子たち"というターゲティングをしていました。マンガの市場ってすごく広くて、雑誌を買ってなくてもマンガユーザーだと思うんです。なので、少女マンガを読む可能性のある人たちはすべてユーザー対象だと考えています。パルシィだからではなく"今の女の子たちはこういう感じで特にマンガを読む子たちはこうかも"と想定しながら運営しています。

北原
実際のユーザー層はすごく幅広い印象です。私がいた「デザート」の読者層は20代前半と30代がボリュームゾーンでした。パルシィもユーザー層の多くは20〜30代で近いものを感じますが、「デザート」の時よりも若い層が目立つ印象です。無料チケットで読めるものが多いということと、SNS経由のユーザーが雑誌に比べて多いからだと推測しています。

助宗
マンガが広く読まれているのと同じで、アプリが拡大すればするほどユーザー層は広くなっていきますね。それだけにその人が何を読みたいかというレコメンドが重要になってきます。ただ、少女マンガって恋愛をテーマにしている作品が多いので、個人の経験値や年齢によって未知の体験がどれくらいなのかによって、共感像が違います。そこが少年マンガと違って難しいところであり、おもしろい点でもあると思っています。

──女性をメインターゲットとしたマンガアプリ事業にある苦労はどんな点ですか。

北原
ライバルはほかの少女マンガではなく、サブスクリプションの配信サービスやアイドルの映像コンテンツとの"時間の奪い合い"だと思っています。それらよりも「よかった!」って感じてもらえるようにしたいというのが常にあります。

助宗
エンタメにおいてマンガとは何なのかを考えるようになりました。配信ドラマは見終わるのに1時間かかるけど、マンガは気軽にパッと短時間で楽しめる。同時に誰かと楽しむのは難しく、基本1人で読むものだとか。あと、マンガは歌ったり踊ったりはできないとか(笑)。

北原
自分のペースで楽しめることもマンガのいいところですよね。

──新連載も高い頻度で配信されていますね。

北原
オリジナル連載はパルシィの一番大事なコンテンツです。連載開始時だけでなく、タイミングごとに読者の目に触れて読んでもらえるように工夫をしています。昨年のオリジナル新連載は60本を超えました。切り替えの見極めも含めて、早いサイクルでどんどん挑戦できるのもアプリならではだと思います。


マンガ業界全体を活性化させるというポリシーを持ち、"友達とマンガを楽しみ、応援する"という思想が根幹となっている「Palcy(パルシィ)」。その結果として、ファンとのコミュニケーションを確立することに成功し、発展を続けています。

後編ではパルシィの"今とこれから"について触れていきます。

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